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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)11692号 判決

原告

三島安紀子

ほか二名

被告

鈴木昇

主文

一  被告は原告三島安紀子に対し、金一六六五万一六四二円及び内金一五九五万一六四二円に対する平成二年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  原告三島安紀子のその余の請求並びに原告三島正昭及び原告三島種子の各請求はいずれも棄却する。

三  原告三島安紀子と被告との間の訴訟費用はこれを二分し、その一を原告三島安紀子の、その余は被告の負担とし、原告三島正昭及び原告三島種子と被告との間の訴訟費用は、原告三島正昭及び原告三島種子の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告三島安紀子に対し、金三一七八万七〇〇一円及び内金三一〇八万七〇〇一円に対する平成二年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

二  被告は原告三島正昭に対し、金二五六万三〇〇〇円及びこれに対する平成五年一月一〇日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

三  被告は原告三島種子に対し、金五〇万円及びこれに対する平成五年一月一〇日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

第二事案の概要

交差点で直進進行していた原動機付自転車と右折進行していた乗用車が衝突した事故によつて、障害を負つた原動機付自転車の運転者が、乗用車の運転者に対して、民法七〇九条、自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  当事者に争いがない事実及び証拠上容易に認められる事実(争いのある事実については、証拠を適示する。)

1  原告安紀子は、平成二年一月二〇日午後一〇時四五分頃、大阪府摂津市鳥飼中一丁目三三番一四号先の信号機によつて規制された交差点(本件交差点)において、原動機付自転車(摂津市け七八〇七)(原告車両)を運転して、東から西に向つて青信号に従つて進行していたところ、西から南に青信号に従つて右折進行してきた被告運転の普通乗用自動車(大阪五三と八〇五四)(被告車両)に衝突され、傷害を負つたが、被告はその場から逃走した。

2  原告安紀子は、本件事故によつて、左右両下腿骨開放性骨折、両側大腿部挫創、左膝内障、頭部外傷Ⅰ型及び全身打撲創の傷害を負つた(甲二、三)。

3  被告は、飲酒の上、直進信号が青であつたのに、直進者に十分な注意を払わず進行したことによつて、本件事故を引き起こしたものであるから、七〇九条によつて、また、被告は、被告車両の運行供用者であつて、その運行によつて本件事故を引き起こしたものであるから、自賠法三条に基づいて、本件事故に基づく損害を賠償する責任がある。

4  原告安紀子は、本件事故によつて、自賠責保険法施行令後遺障害別等級一三級九号(以下級及び号のみ示す。)に該当する左下肢短縮(一センチメートル)の障害を負い、自賠責保険会社によつて、その旨の確定を受けた。

5  被告は、本件事故に関して、治療費として原告安紀子が治療を受けた各病院に合計七一九万一五四一円、原告安紀子に一八一万九二四五円の合計九〇一万〇七八六円、原告正昭に一〇〇〇万円を支払つた。

二  争点

1  原告安紀子の後遺障害の程度

(一) 原告安紀子の主張

原告安紀子には、左下肢短縮障害の他、両側脛骨及び腓骨の変形骨癒合(下腿変形)、両足関節機能障害、両下腿内旋変形(右一二度、左二八度)、左大腿内側・右膝蓄部に知覚低下、左大腿部筋萎縮、左膝関節部痛、両下腿部痛(骨折部)、左足関節部痛及び両足下腿部に一五か所以上の大きな肥厚性瘢痕を残す後遺障害が固定した。

その程度としては、両膝関節の機能障害であり、一下肢の機能障害である一二級七号より重篤であつて、両足脛骨及び腓骨に変形が生じており、これは長管骨に奇形を残すもので一下肢の場合には一二級八号に該当し、両下肢であるから併合して一一級に該当する。両下腿部のケロイド状となつた瘢痕は、外貌に醜状を残すものとして一二級一四号に該当する。その他に、骨折部の疼痛があり、これらの各障害を併合すれば、少なくとも関節に著しい障害を残すものとして一〇級に該当する。

(二) 被告の主張

両足関節機能障害は否認し、両足膝関節の機能障害の程度は角度からして、原告安紀子主張の等級には至らず、長管骨変形については、自賠実務上、原告主張の等級に該当するには、一六五度以上湾曲することが必要であるところ、原告安紀子にはそのような湾曲はない。

2  原告安紀子損害

(一) 原告安紀子の主張

(1) 入通院付添費 一一六万五四六四円(既払い分六二万七六五四円も含む。)

原告安紀子は瀕死の重傷であり、入院全期間である一七四日間付添が必要であつて、母親である原告種子が付き添つたので、一日四五〇〇円で計算すると、入院付添費としては、七八万三〇〇〇円が相当である。また、通院も全期間である二七日付添が必要であつて、原告種子が付き添つたので、一日二五〇〇円で計算すると、通院付添費としては、六万七五〇〇円が相当である(なお、原告種子の付添分のうち、合計三一万二六九〇円が既払いである。)。

また、原告安紀子の重篤な症状からみて、原告正昭やその長男も勤務を休んで病院にかけつけざるをえず、その合計額としては、原告正昭分二一万九八七〇円、長男分九万五〇九四円である(なお、これらは既払いである。)。

(2) 看護費 二七万円

退院後二、三か月間はまともに歩行できなかつたので、日常生活に慣れるため少なくとも六〇日間の看護が必要であり、原告種子が看護に当たつたから、一日金四後〇〇円の割合によつて計算すると右のとおりとなる。

(3) 家族交通費 八三万五八四〇円(既払い六四万円も含む。)

被告側と協議し支払われた一日八〇〇〇円の計算で入院当初からの八〇日分計六四万円(この部分は既払いである。)の他、その後も、原告種子は、原告安紀子の入院中ずつと病院に赴き、通院交通費を必要としたが、その合計額は、一九万五八四〇円である。

(4) 休業損害 三六〇万二八五三円(既払い二六万二五〇一円も含む。)

原告安紀子は本件事故当時アルバイトをしていたので、平成二年二月、三月分のアルバイト収入に相当する計一二万〇九七六円分の損害を被つた。そして、平成二年三月末には卒業し、就職する予定であつて、少なくとも同年齢者の収入一八二万九九〇〇円を得ることが可能であつたから、後遺障害の症状の固定する平成四年二月二五日までの休業損害金三四八万一八七七円の損害の合計の損害を被つた(なお、二六万二五〇一円が既払いである。)。

(5) 入通院慰藉料 三〇〇万円

(6) 物的損害 三三万七〇〇〇円

原動機付自転車(全損)一〇万円、ヘルメツト六〇〇〇円、ジヤンバー(アバハウス)三万五〇〇〇円、セーター三五〇〇円、靴九五〇〇円、バツク(ルイビトン)七万円、眼鏡四万円、コンタクトレンズ五万円、ロングコート二万三〇〇〇円

(7) 後遺障害逸失利益 一五四〇万〇〇二三円

原告安紀子の後遺障害が固定した際二〇歳であつたから、該当する平均賃金二三九万三三〇〇円を基礎として、四八年間就労可能として、中間利息を新ホフマン係数で控除し、後遺障害一〇級の喪失率二七パーセントで計算すると右のとおりとなる。

(8) 後遺障害慰藉料 八〇〇万円

後遺障害の程度が重大で、跛行となつていること、原告が結婚前の若い女性であること、両下腿に著しい瘢痕が残つていること等からして右金額が妥当である。

(二) 被告主張

(1) 入通院付添費

受傷内容からして、付添を要するのはせいぜい二か月が限度である。

(2) 看護費

退院後の付添は、症状からみて、必要性、相当性がない。

(3) 家族交通費

既払い六四万円分については、損害として認めるが、それを超える部分については、本来家族付添費には、交通費が含まれているので、認められない。

(4) 休業損害

平成三年三月三一日退院から三か月程度経過した同年七月ころからは、少なくとも一部就労可能であつた。

(5) 入通院慰藉料

意識障害も、複雑骨折もなかつた。

(6) 物的損害、後遺障害逸失利益、後遺障害慰藉料知らない。

3  原告正昭及び原告種子固有の慰藉料

(一) 原告正昭及び原告種子の主張

原告安紀子の治療経過、後遺障害の程度からして、肯定されるべきであつて、その額は、各五〇万円が相当である。

(二) 被告主張

後遺障害の程度等からして、否定されるべきである。

4  原告正昭の家屋改造費

(一) 原告正昭の主張 三〇六万三〇〇〇円(既払いの一〇〇万円も含む。)

原告安紀子の障害のため、原告正昭は、風呂場、トイレの改造工事及び手摺の設置を余儀なくされ、その費用として、三〇六万三〇〇〇円の出費を余儀なくされたものである(なお、一〇〇万円は既払いである。)。

(二) 被告の主張

後遺障害の内容・程度からすると、風呂場についてはシヤワーの設置、トイレについては簡易いす式便器の設置、階段については手摺の設置をすれば必要にして十分であつた。

5  過失相殺の有無、程度

(一) 被告の主張

本件事故は、直進原告車両と、右折被告車両との衝突事故であつて、被告車両は、右折専用車線を通つており、右折表示も点滅していたから、原告安紀子に少なくとも二割の過失が存する。

(二) 原告ら主張

原告安紀子は、直進車線が優先する道路で青信号に従つて進行していたものであつて、逆に、被告は、飲酒運転して直進車の距離を十分確認しないまま無謀な右折を行つたために本件事故が発生したことは明白であるから、原告安紀子には過失はない。

第三争点に対する判断

一  原告安紀子の後遺障害の程度

1  原告安紀子の治療経過

甲二ないし七、乙七、八、原告安紀子及び原告正昭各本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。

原告安紀子は、本件事故によつて前記各傷害を負い、事故当日である平成二年一月二〇日、摂津ひかり病院に入院して治療を受けたが、出血性のシヨツクで、容態が悪化したため、同月二二日、三島救命救急センターへ搬入され、輸血等の処置を受け、意識状態は改善し、同日両側ホフマン創外固定が施行され、同年二月五日右下腿について、同月一六日に左下腿について観血性骨接合術の手術を受け、同月二六日まで、同病院で入院治療を受けた。原告安紀子は、同日から同年六月七日まで、主にリハビリのため大阪府済生会茨木病院において入院治療を受けたが、その間、同年三月一六日から松葉杖歩行を開始し、同年四月八日にはギプスがとれ、同年五月九日から松葉杖が一本となり、同年五月二五日には階段昇降訓練を開始し、同年六月二日にはフレームを除去した。その後、同年六月二一日の同病院への通院時には歩行はでき、階段も手摺を使用すればよく、起立もできるようになり、その後医師の指示によつて、同年一二月二一日同病院に通院し、歩行も大分慣れた旨告げ、その指示を受け、下腿の抜釘のため、同年一二月一二日から同月二七日まで同病院に入院し、同時に両下腿肥厚性瘢痕の一部の切除の手術を受けた。また、同三年三月一三日から同月三一日まで同病院に入院し、同様の手術を受けた。その後も同病院への通院を続け、同年八月一二日に、瘢痕形成術を受け、この際事故の時混入したと思われるガラス片の摘出も受けた。その後も原告安紀子は、同病院に通院し、同四年二月二五日、症状固定の診断を受けたが、同病院への通院実日数は、二一日であつた。

2  後遺障害の内容、程度

前記争いのない事実、甲七、検甲一、二の各一ないし一〇、原告安紀子本人尋問の結果によると、以下の事実を認めることができる。

原告の平成四年二月二五日の症状固定時の診断における自覚症状は、両膝関節部痛、両下腿部痛、左足関節部痛であつた、他覚症状及び検査結果としては、両下腿内旋変形(右一二度、左二八度)、左大腿内側、右膝蓄部に知覚低下、反射正常、筋力正常、左大腿部に軽い筋萎縮が、レントゲン上両側脛骨及び腓骨の変形癒合が認められた。そして、両下肢の醜状障害については、左下腿部(露出面)に、長さがそれぞれ、五・五センチメートル、四・五センチメートル、四センチメートル及び三センチメートルの四か所のケロイド状の瘢痕があり、右下腿部(露出面)にも、長さ一〇・五センチメートルのケロイド状の縫合痕があり、左大腿部にそれぞれ長さ一一センチメートル、大きさが六センチメートル×〇・八センチメートル及び大きさが四センチメートル×四・五センチメートルの三か所のケロイド状鍵型瘢痕があり、右大腿部に長さ一〇・五センチメートル、大きさが四・五センチメートル×四センチメートル及び大きさが四・五センチメートルの三か所のケロイド状鍵型瘢痕があつた。短縮障害については、右下肢長八七センチメートル、左下肢長八六センチメートルであつた。関節の可動域については、膝の伸展が他動で左右とも〇度、自動で右マイナス五度、左〇度、屈曲が他動で右一五〇度、左一四〇度、自動で左右とも一三〇度、足背屈が他動で左右とも二〇度、自動で右五度、左一〇度、底屈が他動で左右とも六〇度、自動で右三〇度、左二〇度、下腿の外旋が他動で右三〇度、左一五度、自動で右三〇度、左一五度、内旋が他動で右七〇度、左八五度、自動で右四〇度、左五〇度であつた。

原告は、中腰以上に腰を下ろすことや走ることに困難もあり、両下肢は内側に向いているため、それを正常な形にすると歩きにくく、両下肢の瘢痕がケロイド状となつているために、原告安紀子としては、スカートをはいたり、水着を着たりする気持ちになれない状態である。

3  当裁判所の判断

まず、一三級九号に該当する一下肢(左下肢)の短縮障害があることは当事者に争いがない。

次に、両膝の機能障害についてであるが、健康な膝の屈曲は、自賠及び労災実務上伸展〇度、屈曲一三〇度とされていることは当裁判所に顕著であつて、前記の程度の可動域からすると、その制限は認められず、等級には該当しない。

その次に、両下肢の醜状痕であるが、自賠実務上及び労災実務上、両大腿のほとんど全域の醜状痕については、一二級相当とされているところ、前記認定の程度(大腿部の醜状痕の数は多く、それぞれも大きく、ケロイド状となつており目立ち易いこと、下腿にも少なからず存在すること等)からすると、右記場合に相当する醜状痕であるといえ、一二級相当と判断すべきである。

そして、両下腿の脛骨及び腓骨の変形障害であるが、前記認定の治療経過、後遺障害の内容、程度からすると、本件事故による両下腿開放生骨折の治療のため、観血性骨接合術を受けたが、それらの骨折が治癒するにあたつて、事故前よりも内側に向いて接合してしまい、その結果、骨折部位以下の両足部分が、内側に向いていることが認められる。ところで、自賠及び労災実務上、長管骨の変形と認められるものは、一六五度以上湾曲して変形癒合したものに限られるところ、右障害は、それには該当しない。そこで、実質的に同視しうるかを検討すると、右障害の具体的な生活への支障としては、歩行に正常者よりも困難があると推測はできるものの、前記短縮障害での評価を越える支障があることまでの立証はなく、また、外観上の問題も否定できないが、それも、前記両下肢醜状痕での評価を越えるものではないと考えられるので、右障害を変形障害ないしそれに実質的に同視しうるものとして等級認定することはできない。

最後に、左足関節の運動制限も、前記の程度では機能障害というほどのものでなく、左大腿部の軽度の筋萎縮も、その程度からして、時期が来れば解消するものであり、残存する痛みについても、後遺障害と認定する程度のものである旨の立証はなく、他に後遺障害とされるべきものの立証はない。

そこで、原告安紀子の障害としては、一二級相当の下肢醜状痕及び一三級九号に該当する下肢の短縮障害となり、それらを併合して一一級と解すべきである。

二  原告安紀子の損害

1  入院雑費 二二万六二〇〇円(原告安紀子主張同額)

当事者に争いがない。

2  治療費 七二四万九四八九円(原告安紀子主張未払い額五万七九四八円、被告が主張し、原告安紀子が認める既払い額七一九万一五四一円)

未払い額については、甲八の一ないし一三によつて認めることができ、既払い額については当事者に争いがない。

3  文書料 一万〇九一八円(原告安紀子主張未払い額七八二八円、既払い額三〇九〇円)

未払い額については、甲八の一四によつて認めることができ、既払い分については、当事者に争いがない。

4  入通院付添費 四五万二五〇〇円

(一) 原告種子分 四五万二五〇〇円

入院中の付添の必要性及び相当性については、二か月間分(六〇日分と善解する。)については当事者に争いがなく、病状からすると、ギプスがとれ、松葉杖歩行が可能となつた頃である平成二年五月始め頃までの一〇〇日間は付添は必要であつたと認められ、その一日当たりの金額としては、四五〇〇円をもつて相当とするから、左のとおりとなる。

4500円×100=45万円

また、通院中の付添は、前記の治療経過からすると、平成二年六月二一日の一日分は必要であつたと認められ、一日当たりの金額としては、二五〇〇円をもつて相当と認められるから、左のとおりとなる。

2500円×1=2500円

(二) 原告正昭分及び原告正昭の長男分 否定

甲一一によると、原告正昭やその長男も、ある程度原告安紀子に付き添つたと認められるものの、それは現実の付添看護の必要性によるものと認めるに足る証拠はなく、親族としての心情によるものと窺われるから、それについて、付添費としての損害としては認められない。

5  退院後自宅看護費 否定

弁論の全趣旨によると、原告種子が、退院後、自宅である程度、原告安紀子を看護したことは窺われるが、前記認定の治療経過からすると、それは現実の付添看護の必要性によるものと認めるに足りず、親族としての心情によるものと窺われるから、それについて、付添費としての損害としては認められない。

6  家族分交通費 六四万円

六四万円部分については当事者に争いがない。その余の部分については、前記認定の看護の必要期間については、看護費内で評価されており、それを越える部分については、看護としての必要性は認められないので、そのための交通費も認められない。

7  休業損害 三四五万六一五六円

甲一二、原告安紀子本人尋問の結果によると、以下の事実が認められる。原告安紀子は、平成二年一月二〇日の本件事故当時一八歳の健康な女子で、高校三年生として学業に従事するかたわら、スーパーのレジ係としてアルバイト稼働し、前年一年間で、七二万五八五七円(一月当たり六万〇四八八円)を得ており、本件事故当時、未だ就職先は決まつていなかつたが、同年三月末の高校卒業時から就職することを希望していた。しかし、本件事故の後、平成五年五月、六月頃、自宅近くの塗料製造会社で勤務を開始するまでは、就職せず、平成五年九月ころの月収は一五万程度であつた。

前記認定の治療経過に、右事実を総合すると、原告は、右不就労期間のうち、本件事故によつて、平成二年二月、三月のアルバイト代及び平成二年四月一日から抜釘が終了する平成三年三月三一日からそれからある程度経過観察をした平成三年七月末までの一年三か月間休業するのが相当であると認められ、その後、症状固定日である平成四年二月二五日までの二〇九日間平均して五割労働能力が喪失したと認められるところ、アルバイト期間の基礎収入としては、甲一二によつて認められる月収平均六万〇四八八円という前年の実績を基礎とし、その後は、平均二年賃金センサス産業計・企業規模計・女子労働者の新高卒計一八歳から一九歳の平均年収である一八二万九九〇〇円を基礎とすべきであるから、その合計額は、左記のとおりとなる。

6万488円×2+182万9900円÷12×15+182万9900円÷365×209=345万6156円

8  入・通院慰藉料 二〇〇万円(原告主張三〇〇万円)

前記認定の入通院期間、実通院日数等の入通院経過、特に、当初出血性シヨツクのために容態が悪化したこと、ギプスでの固定がされたこと、何度かの手術を経ていること、骨折も開放性であつて、左右両下腿と複数であることからすると、二〇〇万円をもつて相当と認める。

9  後遺障害逸失利益 七二二万四九六五円(原告安紀子主張一五四〇万〇〇三二円)

前記認定の障害の程度、内容、該当する等級、原告が若い女性であつて、外貌、服装によつてある程度就職の機会が制限されうることを考慮すると、労働能力喪失率は、症状固定時(原告二〇歳)から一〇年間は二〇パーセント、その後、労働可能年齢である六七歳までの三七年間は九パーセントの労働能力が喪失したとみるのが相当であつて、中間利息控除に新ホフマン係数、基礎収入に平成二年賃金センサス産業計・企業規模計・女子新高卒二〇歳から二四歳の平均年収である二三九万三三〇〇円として計算すると左のとおりとなる。

239万3300円×0.20×7.945+239万3300円×0.09×(23,832-7,945)=722万4965円

10  後遺障害慰藉料 三五〇万円(原告安紀子主張八〇〇万円)

前記認定の障害の程度、内容、該当する等級、後記事故状況等からすると、右金額をもつて相当と認める。

11  物損 二〇万二二〇〇円(原告安紀子主張原動機付自転車一〇万円、ヘルメツト六〇〇〇円、ジヤンバー三万五〇〇〇円、セーター三五〇〇円、靴九五〇〇円、バツク七万円、眼鏡四万円、コンタクトレンズ五万円、ロングコート二万三〇〇円、合計三三万七〇〇〇円)

原告安紀子本人尋問の結果によると、右物件が本件事故によつて、滅失したことが認められるものの、ある程度使用したものもあり、その程度がすべて明確というわけでもなく、各価格についても、その供述を裏付けるものはないので、控えめに認定するとして、平均して原告主張の六割の価格であると認める。よつて、右のとおりとなる。

12  損害合計 二四九六万二四二八円

三  原告正昭及び種子の慰藉料 否定(原告正昭及び同種子主張各五〇万円)

前記認定の治療経過や障害の程度(幸いにして、原告安紀子の醜状痕は、主に下腿部であるから、顔面と異なり、工夫によつて、ある程度隠すことが可能である。)からすると、その両親に固有の慰藉料は認められない。

四  原告正昭の家屋改造費 一〇〇万円(原告正昭主張未払い分二〇六万三〇〇〇円、既払い分一〇〇万円)

甲九の一、二、三、甲一八の一、二、原告安紀子及び原告正昭本人尋問の結果によると、原告正昭は、原告安紀子の使用の便のため、風呂を低くして足が伸ばせるような形とし、トイレを洋式とし、階段、風呂、トイレに手摺をつける等する他、原告安紀子のためのものではないが、新しい洗面台を設置し、合計三一二万六〇〇〇円を費やしたものの、洗面台の購入資金が六万三〇〇〇円であること以外、その詳細な内訳は不明であることが認められるものの、前記認定の障害の程度からすると、そのうち、必要なものは、手摺の設置、洋式便所、シヤワーの限られたものと認められ、それぞれの相当額が特定できない以上、ある程度控えめとせざるを得ず、合計一〇〇万円と推認するのが相当である。

五  過失相殺の有無・程度

1  本件事故の態様

(一) 検甲三の一ないし五、乙一ないし六、原告安紀子及び被告本人尋問の結果によると以下の事実が認められる。

本件事故現場の交差点(本件交差点)は市街地にあり、本件事故当時はやや明るい状態であり、原告車両、被告車両双方の進行方向からとも前方の見通しはよく、信号機は作動していた。その概況は、別紙図面のとおりである。本件事故現場付近の道路はアスフアルトで舗装されており、路面は平坦で、乾燥しており、時速四〇キロメートルに規制されていた。

被告は、午後七時三〇分頃から午後一〇時三〇分頃までに、勤務先で缶ビール(三五〇ミリリツトル入り)を少なくとも二本飲んだが、飲んだ量も少なく、足元もしつかりしていたと判断したので、被告車両を運転して帰宅することとし、被告車両を運転して、右折しようと本件交差点の西側から進行していたところ、対面信号が青であつたから、同図面〈1〉付近で、軽くブレーキを踏み、やや減速し、交差点に進入し、同図面〈1〉と〈2〉の中間位で、同図面〈ア〉付近を西側に直進するとライトを認め、直進車両があることはわかつたが、遠くに感じたので、右折出来るものと判断し、同図面〈3〉点でハンドルを右に切るとともに、右折進行方向の車両、歩行者の有無を確認するため、視線をその方向に向け右折進行したところ、同図面〈4〉で、被告車両の前面右側と同図面〈イ〉の被告車両の正面が衝突したが、その時は側溝に当たつたと思つたものの、一応、徐行して南進していると、単車に乗つた他の人に事故があつたと指摘され、回つて事故現場に戻る旨同人に告げたが、その後、追い掛けて来る車両等がなかつたため、そのまま逃走した。

原告安紀子は、本件交差点を直進するため、時速約三、四〇キロメートルで東から進入し、同図面〈ア〉付近で、同図面〈1〉ないしそのやや東側付近の被告車両を見たが、右折表示には気付かず、そのまま進行したところ、前記の態様で衝突した。

(二) なお、被告は、捜査段階での実況見分時の現場説明(乙二)、供述調書(乙八)及びその本人尋問において、いずれも、右折のための方向指示は出していた旨供述するものの、捜査段階と本人尋問の際では、右折指示を出した時期が異なり、それに対する合理的な説明もなく、逃走経緯や衝突時の認識等で著しく変遷しているものであるし、現に、被告が逃走を図り、その犯行を隠滅しようとしたことも併せ考えると、原告安紀子本人尋問の結果に照らし信用できず、右折表示を出したとまでは認定できない(なお、原告安紀子についても供述調書(乙四)と本人尋問での供述に食い違いがあるものの、供述調書作成は平成二年四月三日いまだギプスもとれない時期に病院でなされていること、その内容もやや曖昧・不正確であつて、右折表示を見たとまで記載されていないことからすると、右供述調書は、原告安紀子の本人尋問の結果中の右折表示には気付かなかつたとする部分の信用性を排除するまでのものとはいえない。)。

3  当裁判所の判断

前記認定の事実からすると、原告安紀子も、別紙図面〈1〉ないしその東側付近を走行していた被告車両があつたのだから、その後もその動向に注意し、右折するか否かを確認する義務があつたのにそれを怠つた落ち度は否定できないものの、逆に、被告は、飲酒の上、被告車両を運転していたこと、被告車両が衝突地点から約三〇メートル西の位置にあつた際に、衝突地点からこれも約三〇メートル東にあり、既に交差点内に進入していた位置にあつた直進車両(原告車両)の存在に気付きながら、その距離からすると、衝突しないと考えることになんら合理性がないのに、衝突しないと軽信したこと、右折表示を出したと認めるに足りないこと、右折の直前にはまつたく対向直進車両には注意せず、停止や徐行もせず、そのまま右折進行したこと、被告車両の衝突位置が正面であることからして、直近右折と考えられること、原告車両と衝突した際も、合理的に考えるならば、原告車両との衝突しかありえないのに、側溝と衝突したと考えるような精神状態であつたこと等を併せ考えると、被告の過失の大きさから考えて、原告の過失は著しく小さく、相殺すべきほどの過失とはいえない。

六  既払い

したがつて、原告安紀子については、損害額から既払い額九〇一万〇七八六円を控除すると一五九五万一六四二円となるが、原告正昭については、その損害は全額填補済みとなる。

七  弁護士費用 七〇万円

本件訴訟の認容額、経過からすると、原告主張の七〇万円を下らないと認めることができる。

八  結語

よつて、本件各請求は、原告安紀子が被告に対し、一六六五万一六四二円及び内金一五九五万一六四二円に対する不法行為時である平成二年一月二〇日から民法所定の年五分の割合の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 水野有子)

(別紙図面)

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